2021.03.23

対談:行動に結びつく目的を掲げ、データで示してカイゼンを促そう

激動の2020年、変革が求められる2021年、日本人駐在員のあり方まで変わり、駐在員の減少が予想されています。日本人駐在員が減り続ける中、タイの拠点はいかにしてデジタル技術を活用しながら技術を磨き、生産性を上げていくべきなのでしょうか。そこで求められる仕組みとは!? 

今回の対談では、総合コンサルティングファームであるJMA Consultants Thailand Co.,Ltd.代表の勝田氏と、株式会社 日立製作所で産業IoT分野におけるデータ活用を推進しているシニアストラテジストの川本氏に、 製造現場が抱える問題点やデジタル技術やIoTに求められる役割・ポテンシャルについてお話をうかがいました。

データを取っていない会社がまだ多い

ガンタトーン:まずみなさんのご紹介から始めたいと思います。勝田さんは現在、JMACで工場の生産性向上や人事制度改革、組織・チーム開発を手がけられていますが、以前はエンジニアとしてお仕事をされていたとお聞きしました。

勝田:ええ。素材産業の設備設計のエンジニアとして9年間勤めた後、2001年にJMAC(株式会社 日本能率協会コンサルティング)に転職しました。当初は研究開発・設計部門の知的生産性向上や組織風土の活性化がテーマでしたが、その後、工場の生産技術部門等をはじめとした間接部門の方々からお声がけ頂き、工場の支援もスタートしました。2003年から出張ベースで日系企業のタイ拠点の支援を開始し、JMA Consultants Thailand Co.,Ltd.に赴任したのが2008年。もう12年が経過しました。

ガンタトーン:川本さんは生産ラインを可視化するサービスを展開されているとのことですが、少し詳しく聞かせていただけますか。

Lumada Manufacturing Insights

川本:Lumada Manufacturing Insightsは、データを活用することで新しい価値を生み出し、経営課題の解決や事業の成長に貢献する製造業向けのデジタルソリューションです。製造現場では生産実績の集計に時間がかかるため、リードタイムや稼働率、直行率の悪化の兆候を見逃してしまい、対策が遅れてしまう問題が発生しています。管理者が現場の状況をオンタイムで把握できていないからです。Lumada Manufacturing Insightsは、これらの課題をIoTやデジタルの力で支援するソリューションです。

ガンタトーン:オンタイムで生産ラインの可視化に必要なデータを取っていないという会社も多そうですね。

川本:おっしゃるとおりです。そこで、レベル1からレベル4まで段階的にデジタルソリューションの導入をステップアップさせていきます。レベル1は、まずデータを取って可視化し、現場で何か起きているのかを把握する段階です。作業員(huMan) 、設備(Machine)、材料(Material)、工程・指図(Method)の4Mデータを取って可視化していくと、現場で何が起きているのかがわかり、カイゼン策が生まれていきます。導入してすぐに良くなるということではなく、デジタル技術を活用することで、カイゼン活動を加速させていく。そうして品質・コスト・納期(QCD)の向上を目指します。

ガンタトーン:タイの企業の反応はいかがですか。

川本:IoTやデジタルの活用への興味はありますが、システム導入となると「まだ時期尚早」と考えている企業が多いですね。戦略策定や構想策定など大上段から着手するのではなく、比較的簡単に導入できるソリューションで直近の課題を解決し、まず一歩を踏み出してもらうアプローチも必要だと感じています。

技術を伝承する仕組みが必要

ガンタトーン:勝田さんがタイに赴任されてから12年の間に、タイの製造業はどのように成長し、変化してきたのでしょうか。

技術を伝承する仕組みが必要

勝田:在タイの日系製造業の変化は4段階に分かれると思います。まず最初は製造拠点としての設立です。生産機能の安定操業の確立に邁進する段階ですね。次は、安価な人件費のもと、日本並みの品質をめざすステージです。日本クオリティに追いつき追い越せがスローガン。このあたりからカイゼン活動も始まります。さらに成熟して3段階目に入ると、周辺国が著しく台頭しコストダウン圧力に直面し、高付加価値生産をめざすステージです。インド製の部品を使ったり、ASEANの中で融通しあうのもこの段階ですね。最後の4段階目に入ると、以前にもまして地産地消が当たり前になり、周辺国にも販路を拡大するようになります。現在は、3段階目と4段階目の中間といったところでしょうか。4段階目の先では、同じタイであってもバンコクと地方とでは所得水準もまったく違うことから、バンコク向けのハイエンドモデルと地方向けのミドル〜ローエンドモデルを分けた製品やサービスの構成が求められます。ただし、地方向けというのは日本人の感覚では難しいので、ローカルのパートナー企業を見つけて入っていくのが得策だと思います。

ガンタトーン:タイ拠点の成熟度自体は上がっているのでしょうか。

勝田:日本本社はタイ拠点で成熟度の高いモノづくりが行われていると考え、後継者育成も進み、それなりに管理運用されているという認識を持ちがちですが、実はそれほど上がっていません。それはタイ人のケイパビリティが低いということではなく、技術の伝承をする段階で目的を共有するところまでの深さを持てなかったから、目の前の生産性を上げ、品質を上げることに注力せざるを得ず仕組み化が後回しになっているようです。

ガンタトーン:現場はモノづくりについてはわかっていても、行動の目的はわかっていなかったということですね。川本さんにお聞きしますが、日本では技術伝承をどのように仕組み化しているのでしょうか。

川本:日本の場合、団塊世代が大量に退職する時期を迎え、熟練者が持つ技能を仕組み化して継承する取り組みが進んでいます。例えば、溶接には高度な技術が必要ですが、記録映像やディープラーニングを使うことで、若手作業員に対して熟練者の細かな動きを教えることができるようになりました。技能伝承の仕組みの中に新しい技術を取り込んでいこうという動きが進んでいます。

ガンタトーン:タイでもそうした仕組みが必要ですね。

川本:手前味噌になりますが、そうなるように、Lumada Manufacturing Insightsを普及させたいと思います。経営視点からオペレーションの視点に至るまで、デジタルを活用して製造現場の見える化を支援していきたいですね。

デジタルで働く人の気持ちを探っていく

ガンタトーン:勝田さんのところに企業から依頼される内容は、昔と比べて何か変化はありますか。

勝田:10年前ぐらいは労働生産性向上のテーマが大半でしたが、その後、品質改善のテーマに移行しました。問題が発生しても、現状分析をせずに経験と勘で対処していたため根本的な解決には至らず、問題が再発することが多かったからです。最近は、日本人駐在員が減らされ、さらにはベテラン社員が定年を迎えはじめて、拠点全体の収益性向上や持続性確立といったトータルソリューションに関心がシフトしつつあります。

ガンタトーン:ニーズが多様化すると、コンサルチームにも人事の専門家など多彩な顔ぶれが必要ですね。

勝田:その通りです。特定のラインや工場だけではなく、生産拠点としての機能を継続できる仕組みにする必要があります。製造のお手伝いをしながら、従業員が正しく評価され、がんばっている人がちゃんと昇格できて、マネジメント力をつけてもらえる人事制度など、総合的な支援が欠かせません。

ガンタトーン:日立の工場には、デジタルを使って人事制度やモチベーションまで視野に入れたシステムの例はありますか。

デジタルで働く人の気持ちを探っていく

川本:難しい質問ですね。当社のある組立製造ラインを例に挙げると、班長が作業員に今の体調や気分を聞ける画面があります。「いまは元気ですか」とリーダーが尋ねたときのレスポンスで調子の良し悪しがわかるので、悪ければフォローするといった取り組みをしています。

勝田:無機質にデータをやりとりするのではなく、人の気持ちもひろいながら生産性を上げていく仕組みは興味深いですね。

川本:日本では個人のスマートフォンを工場に持ち込んで実務で使うことはできませんが、タイでは従業員同士が個人のスマートフォンのメッセンジャーアプリを使ってコミュニケーションしているケースもあるようです。日本流の考えやシステムをそのまま持ち込んでもうまくはいかないでしょう。

勝田:そのとおりだと思います。タイ版にアレンジしたものが必要ですね。

日本流のモノづくりを押し付けてもうまくはいかない

ガンタトーン:コロナ禍は企業活動にさまざまな影響をもたらしています。今後、駐在員がより減っていくのか、現地化が加速するのか。勝田さんはどうご覧になっていますか。

勝田:以前であれば、出向していた方が帰任すると100%後任の人が来ましたが、いまは後任を送らなくなる傾向が強まっています。トータルでいうと日本人駐在員の数は減る方向に進んでいると思いますね。

ガンタトーン:中小企業も同じですか。

勝田:採算に合わないと判断した部門を切り離すとか、拠点自体を存続させるか否か判断しなければならないという会社もあります。また、日本人をゼロにはできないが、複数の人材をタイ拠点だけに出向させられないという会社もあります。

ガンタトーン:いずれは、日本にいながらにしてITを使って業務を可視化するようになる。ダッシュボードを見ながら現地の情報を把握できるようになる日が来るのかもしれないですね。

勝田:情報の見える化ができていても、それを十分に活用できている企業はまだ少ないのですが、時代の潮流としては間違いなくその方向でしょう。いまはその転換期。目的を明確に設定できるか、またそれをどう使いこなすのか、という段階だと思います。

ガンタトーン:日立ではいかがですか。

Lumada Manufacturing Insights

川本:ある事例が参考になるかもしれません。この企業は海外に複数の生産拠点があり、うまくいっている拠点のノウハウを各地で活用しています。納期遵守率や生産量、可動率など各工場のKPIの推移を本社で見ながら、次の一手を打っているようです。KPIが正常値であれば画面に映るピン(拠点)が青くなり、警告状態だとオレンジ、異常状態だと赤くなる。オレンジや赤のピンをクリックすれば、その工場の画面にドリルダウンでき、何が原因で生産性が落ちているのかを確認することができます。現実に起きていることを共有すれば、経験や勘に頼った「なんとなく」ではなく、より定量的で具体的な議論ができますからね。

ガンタトーン:これをタイで実装していく場合、いろいろなところにセンサーをつける必要がありますか。

川本:理想的にはそうですが、データを取るだけでもコストがかかるので、比較的簡単な仕組みで スモールスタートしましょうと提案をしています。スマートフォンやタブレットで人が実績を入力するやり方もあります。ラフなデータを取って、まずは俯瞰的に課題を捉えるところから始めて、必要に応じて細かなデータを収集する方向に進めたほうがいい。初期費用を抑えつつ、効果を出せるソリューションを目指しています。

ガンタトーン:いまお聞きするまで、初期投資が相当かかると思っていました(笑)。スモールスタートから始められ初期費用が抑えられるのは、中小企業には朗報ですね。

川本:最初から完璧なものを目指さなくてもいい、ラフに方向性を見つけるというやり方もあります。例えば、工程・ロットごとに着手時刻と完了時刻をエクセルに記録しておき、1ヶ月たってからLumada Manufacturing Insightsで可視化すれば、どの程度の生産効率でラインが稼働しているかわかります。どの工程で止まったというデータがあれば、根本的な課題をつかめる。最初から完璧を求めず、まずはやってみようというアプローチです。

勝田:面白い。さきほどの川本さんのお話にもありましたが、ラインにスマートフォンを持ち込んで作業情報をやり取りするのは日本ではありえなくても、ASEANの他の国はよくあることですよね。その意味で、オペレーションのされ方や人の習慣なども含めて、タイがマザー拠点となってタイとASEANの拠点を底上げしていくという方法は今後、有効だと思います。

デジタルで働く人の気持ちを探っていく

川本:それは良いですね。日本流のモノづくりを押し付けてもうまくはいかない。オペレーションの責任は現場にうまく移管して、結果を日本に報告する仕組みづくりが必要なのかもしれません。

勝田:クライアントの中には、IoTやセンサーをそれなりに導入しているという企業はありますが、よく聞くとデータは取れているが料理の仕方がわからないという宝の持ち腐れ的なケースが少なくありません。やはり目的を明確にして、共有することが重要ですね。拠点がいまやらなくてはならない目的をデータで見られるようになれば、それが入口となって改革が進んでいくと思います。

ガンタトーン:タイの企業は意思決定が早いので、費用対効果が明確であればやってみようと一歩を踏み出すところも多そうです。これからのお二人の取り組みを楽しみにしています。今日はありがとうございました。
 

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日立が提供している見える化サービス「Lumada Manufacturing Insights」はスモールスタートで始められ、導入費用も抑えられます。
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