2021.03.15

対談:「見える化」から始まる、製造現場の意識カイゼンとデジタル技術の活用

IoTの導入やDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれるなか、製造業は多くの課題に直面しています。製造現場にいま立ちはだかっている問題とは何なのか。データの可視化から効率化を図り、収益性を上げていくためにはいったい何が必要なのでしょうか。

今回は、「『見える化』から始まる、製造現場の意識カイゼンとデジタル技術の活用」をテーマに、タイに進出した日系の製造業「K.U. Nomura Thai Ltd.」代表の野村氏、マニュアル作成・共有プラットフォームを開発・提供しているIT企業「Studist (Thailand) Co., Ltd.」代表の豆田氏、また、日本の「株式会社 日立製作所」で産業IoT分野におけるデータの活用を推進しているストラテジストの川本氏が、製造現場の改善にIoTを活用し、DXを実現していくために必要な視点や施策を語ります。

ゼロから始めた「カイゼン」活動。3年で「カイゼン」ありきの企業風土へ

ガンタトーン:まず、みなさんのお仕事についてお聞きしたいのですが、野村さんはタイ進出32年、「K.U. Nomura Thai Ltd.」で3代目の代表を務められていますね。

野村:弊社はプラスチックの押出成形を主な事業としていて、タイには1989年に進出しました。主力製品は冷蔵庫用のドアガスケットです。現在は370人くらいの従業員数で、私が3代目の代表になります。大学卒業後、東京でPR会社に勤めていましたが、大学院に行きたいと思い立ったタイミングで父からタイ法人に来ないかと誘われました。そこでタイに近いシンガポールの経営大学院を選び、MBA修了後タイに来ました。いまから8年前のことです。製造業もタイでの仕事も全くの未経験だったので当初は大きく戸惑いましたが、徐々に経験を積んで2020年から経営を任されるようになりました。

ガンタトーン:タイに多くの日系企業が進出したタイミングですね。豆田さんは、ITの技術で現場改善をサポートしていますね。

豆田:弊社は3年前からタイでの事業をスタートし、2年半前にタイ法人を設立しました。前職は自動車会社の設計や製造現場に入り込んで、業務改善を手掛けていましたが、パワーポイントやエクセルを使いながら苦労されている現場の方を目にし、そうした現場を改善したいと思いマニュアル作成のプラットフォームを立ち上げました。現在は、2,000社以上にサービスを提供していますが、その40%が製造業。次に多いのが飲食・サービス・小売業です。

ガンタトーン:現場課題に対して具体的なソリューションを提供されていますね。川本さんは、産業IoT分野におけるデータ活用ということですが、具体的にはどのようなお仕事でしょう?

川本:顧客の課題に対して、データを使って支援するソリューションを作る活動をしています。具体的には、データを可視化し、コミュニケーションの促進をサポートしています。大企業に加え、中堅・中小の製造業の方々にもお使いいただけるソリューションを提供しています。

ガンタトーン:なるほど。川本さんは、製造業の課題がいろいろある中で特に何が問題だと思われますか。

川本:そうですね。QCD「Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)」の観点から見ると、リードタイムや直行率、稼働率の悪化が課題感としてありますよね。また、紙で記録を取っているため、レポーティングが遅くて精度も劣るという点も課題として多いと思います。それをデジタル技術で改善し、高度な製造を実現することが私たちの狙いです。紙に記録している企業の場合は、デジタルデータを収集して、可視化するところから始めます。それから分析、最適化ですね。そして問題を予測し、バリューチェーンの最適化を行います。

ガンタトーン:なるほど。データを収集して問題点をクリアに把握し、その上で現場で解決を図るわけですね。野村さんの会社では、どのようにカイゼン活動を進めていかれましたか。

カイゼン活動

野村:私がタイに来たとき、会社はちょうどカイゼン活動を開始した直後でした。洪水で顧客の生産量が落ち込み、最低賃金の引き上げ、さらに中国から競合がやってくる…三重苦のつらい状況がきっかけで、まずは、それまで当たり前のようにやっていた休日残業をゼロにすることをスローガンに、カイゼン活動に着手したんです。月に1、2回外部のコンサルに来てもらい、部門ごとのカイゼン活動を5Sから始めました。それこそ、最初は作業台の上にペットボトルが置きっぱなしだから、それを片付けましょうというレベルからのスタートです。

ガンタトーン:スムーズに進んだのですか?

野村:マイルールでやっている古株の従業員がたくさんいて最初はかなり抵抗がありましたが、会社が本気度を見せると徐々に浸透してきました。毎月、ビフォーアフターの報告を行うのですが、例えば製造部門だったらガスケットが何枠できて、不良率はどれぐらいなのかをプレゼンしなければならなくて、次第に現場が変わっていきました。年に一度のアワードをつくって優勝チームには数千バーツの賞金を支給したりパーティーを開催したりとカイゼンを盛り上げ定着させるために色々試行錯誤を繰り返した結果、数字の管理は大幅に進みました。ただIoTの導入には至っておらず、データはいまもエクセルへの入力が主流です。決して精度の低いデータではないのですが、リアルタイムであがってくるわけではありませんのでそれは課題ですね。

ガンタトーン:カイゼン活動が定着するまでに、どれぐらいかかりましたか?

野村:カイゼン活動が定着したと言えるまでには3年ぐらい、外部コンサルを卒業して社内活動化するまでには4年かかりました。日本人経営幹部の一人がカイゼンの責任者として根気強く言い続け、従業員もそれについてきてくれたことが大きいです。いきなり10を100にしろといっても無理なので、「ペットボトルが片付いて良くなったね」というところから(笑)。小さな成功体験はとても大切です。粘り強さが必要で、いまでも突っ込み所の多い指標があがってくることもありますが、カイゼン活動はすでにうちの会社の文化です。

川本:文化になるというのはすごいですね。3年で生産性はどれぐらいカイゼンしましたか。

野村:一例を挙げると、ガスケットの生産数がカイゼン前と後で2倍になりました。作業人数も減ったんですよ。以前はチェック作業者が一人1台を担当していましたが、一人で3台見られるようになりました。直接的な理由は新開発の生産設備によるものなのですが、カイゼン活動によってこれを全員が使いこなせるようになりました。変化が嫌われる昔の風土ではうまくいかなかったと思います。

カイゼン活動

川本:カイゼン活動を進めていく上では、実際にやっている人たちの手応えというか、実感が大事ですよね。野村さんの会社では、どのようにしてモチベーションの向上に結びつけていったのですか?例えばカイゼンの結果、効率が上がってコストが下がり、結果的に給料が上がったとか。モチベーションが伴った上でカイゼンが定着したのでしょうか。

野村:最初のスローガンである休日残業ゼロは従業員にとってダイレクトに収入減になります。自分たちの給料が下がる活動をしなければいけないわけですからモチベーションの高め方は非常に苦労しましたし、定着までに会社を去っていった人も多くいました。ただ、カイゼンというのは社員の声を汲み上げる仕組みです。昔は問題があっても会社に訴える機会がなかったのが今はそれを大いに促されているくらいなので、収入だけではないところで従業員の満足度は上がっていると信じています。実際に離職率も大幅に改善しました。

ガンタトーン:カイゼン活動に伴って売上は増えたんですか?

カイゼン活動

野村:売上はカイゼンというよりも事業環境に左右されるところが大きく、残念ながらここ数年増えていません。開始当初の2013年と比較すると2020年は減収でした。ただし、利益は当時よりも大幅に増えており筋肉質な経営になっています。休日出勤は、以前は年間48日ありましたが、カイゼンの結果、ゼロを達成することができました。一度ゼロを達成してからは、どうしても必要に迫られたとき以外は休日出勤はなくなりました。また、私が来た頃は、ほぼ毎週土曜日がカレンダー上の出勤日でしたが、今では土曜出勤は隔週以下になり、年間休日数も大幅に増えました。売上そのものを増やすための活動としては既存顧客が求める製品を押出以外で新しい成型技術を導入して生産開始したり、タイの次の国への進出に動いたりというのがあります。環境に適応するために変わり続けなければというのは常に意識しています。

川本:カイゼンはすぐには数字につながらない。だからこそ、従業員のモチベーションを上げるための工夫が大事なんですね。

タイは、人材育成に対する優先度が低い?

ガンタトーン:豆田さんの会社は製造業の顧客が多いということですが、どういう課題が多いんでしょうか?タイと日本とでは違いがありますか?

豆田:同じ製造業でも、タイと日本とで課題感が違うように思います。タイに来てから、日本から持ってきたリーフレットは全部捨てました(笑)。日本だと、「業務改善」とか「働き方改革」という言葉が有効なのですが、タイではそれは響かない。人はどんどん変わっていくし、教えても辞めていくからという理由で教育に対する優先度も低いと感じています。

ガンタトーン:よくわかります。マニュアルを作ってもタイ人はどうせ読まないし、すぐ辞めるしとか言われたりしませんか?

人材育成

豆田:タイ人はそういうのは見ないから、タイでは絶対成功しないとまで言われました(笑)。でも、僕の会社ではタイ人が主体的に「マニュアルを作ったから承認してほしい」と言ってくる。管理部のスタッフは、すでにマニュアルを60本も作成しています。マニュアルを残すことで、最終的に自分の仕事が軽くなったり、余裕ができて新しい仕事にチャレンジする時間も増える、ITを使って効率化を図るメリットが最終的に自分に返ってくるとわかればやるんですよ。それに、見ないと仕事が進まない状況にすることも大切ですよね。会社のウェブサイトなどは、Google Data Studioというサービスを使って、リアルタイムでアクセス状況が把握できるようにしていて、その画面を毎日見るのがスタッフの日課になっています。野村さんも「3年かかった」と話していますが、ITやデジタル技術の導入というのは、社内に習慣を根付かせる、文化を変えていくことなのでとても重たい話だと思います。

ガンタトーン:「タイ人はマニュアルなんてどうせ見ないよ」と言うお客さんはどうするんですか?

豆田:そういうことを言う会社には販売しません(笑 冗談です)。実際、文化を変える必要があるので、とても手がかかります。現場の人に、なぜやるのかを理解してもらわないと、どんなに良いツールを入れても活用には至らない。なぜやるのかを説くのは経営者の務めですから、経営者がそれを信じることができなければ難しい。絶対やり切るんだ、と言う強い意思が大切です。

IoTやデジタル技術は、日本の製造業が人材を獲得する起爆剤になる

ガンタトーン:「見える化」を進めていくために経営者はどうあるべきか。ここでみなさんの考えを聞かせてください。

IoTやデジタル技術

川本:豆田さんの話にもありましたが、意識改革を積極的に仕掛けていかないといけないと思います。日立には、社会インフラや産業分野向け情報制御システムを手掛ける「大みか事業所」があります。ここではIoTを活用したカイゼンを進めており、日立のスマートファクトリーのモデル工場となっています。2020年1月には、世界経済フォーラム(World Economic Forum)で、世界の先進工場「Lighthouse」に日本企業として初めて選出されました。日立では、実業としての製品製造(OT)と、私たちのITの2つの事業体が協力しあってスマートファクトリー化を進めていますが、OTの人とITの人は同じ会社であっても価値観が違うと感じることがあります。同じ言葉でも異なる意味合いになることがあります。

ガンタトーン:言葉が違う?

川本:はい。例えば、OTではPCと言えば制御用PCで、一般的に10年以上の長期耐用年数と耐久性が求められます。一方で、ITでつかうPCは3~5年で入れ替えるのが一般的です。OTとITを融合させていくためには、お互いの認識を擦り合わせていくことも必要になります。

IoTやデジタル技術

野村:「自分の組織では下から意見や希望が上がってこない」という話を聞くことがありますが、ボトムアップがほしいなら最初にトップダウンしないといけないと思うんです。ボトムアップの組織を作りたいのであれば、経営者やマネジメント層から「ボトムアップをしよう」という方針を強く出すべきでしょう。

ガンタトーン:経営者が変えていこうと思わないと、どんなに良い技術があっても変わらないんですね。

豆田:いままでの延長線ではなくて、ガラッと変えたい場合は、僕もトップダウンで意識を変えることが重要だと思います。それから、その企業文化にマッチした人を取ることも大事。製造業ではないのですが、非常に面白い事例があります。その会社では、新しい店を立ち上げるたびにスタッフを4、50人雇っていますが、応募してくる人たちは、その会社が何を目指しているのか、全然わからない状態で面談に来るそうです。毎回同じ説明を繰り返して、一人の面談に2時間とかかかっていたそうです。「これは切り替えないとダメだ」と思い立ち、方針を変更。応募者には、まず、最初に会社の紹介資料を送り、理解してもらった上でGoogleフォームでテストを受けてもらう方法に切り替えたんです。入ってから会社を知ってもらうのではなくて、入る前にちゃんと会社を好きになってもらう。理解してもらう。テストでそこを判断し、クリアしたら面接という流れですね。この方法だと面接も15分ほどで終わり、印象がよければすぐに採用しているそうです。入りたくて入ってくる人なので企業文化に最初からマッチしている人を取れるようなったんですよ。

ガンタトーン:その方法はすごくいいですね。我社にも取り入れたいです(笑)。

野村:「目的は何か」と言う視点であれば、経営者側にも見直す点があります。以前から続いているレポートが実はほとんど意味のないものになっていたにも関わらず、つい惰性で提出されるものに自分もサインし続けていることに気づくということが最近自分でもあり反省しました。なぜこれを提出する必要があるのか、そこからどんな判断とアクションがされるかというのは上司側がしっかり考えなくてはいけないですよね。部下からは「こんなの意味ないじゃん」とは言いづらいので。

豆田:そう、その数字を見て、その後どんなアクションするのかを事前に決めておいた方がいい。僕は最近マーケティングオートメーションと言うサービスを使いはじめたのですが、このサービスには指定した条件下でアラートを出す機能があるんですね。そうしたら、スタッフから「こんなアラートを設定してください」とたくさん出てきたんです。でも、そのアラートが出たら、どんなアクションするの?と聞くと、まだすべてのアラートでは詰めきれていない。だから僕は、その先のアクションが決まっているものからアラートを作りましょうと話しています。闇雲に欲しい数字を出し続けて壮大なダッシュボードができても、結局使わないなんてよくある話です。

川本:デジタルツールをいれたけれど、どう使っていいのかわからないというケースは珍しくありませんが、それでは宝の持ち腐れです。このラインから上の数値になったら報告しよう、こういうアクションを起こそう、といった閾値を設定するのはいいですね。気づく力を育てることにつながりますね。

野村:私も従業員にできるだけ無駄なことはさせたくない、と意識しています。現場がやる作業は、例えば昔なら紙にメモしたりエクセルへ入力していたものを決まったGoogleフォームへの入力に変えるだけ。これなら従業員側は何も苦労は増えませんが、アウトプットされたデータの活用方法、見せ方次第で毎日のカイゼン活動は全然変わってくる。こういった例を積み重ねていけば、効率が良いカイゼン策がだんだん出てくるはずです。

ガンタトーン:日本人は「背中を見て覚える」や「失敗して学ぶ、叩き上げ」なんて言葉がありますが、タイでは最初に上の人がきちんと決めることが肝心だと思います。「ボトムアップがほしいなら最初にトップダウン」まさにそうですね。

IoTやデジタル技術

川本:IoTとかDXとか、なかなか馴染みにくい言葉だと思いますが、これらをもっとわかりやすく伝えていって、魅力を感じてもらえるようにしていかなければならないですね。IoTが単なるソリューションと言う枠を超えて、なんか良いよね、ワクワクするよね、そんな未来をつくっていく必要がありますね。

ガンタトーン:おっしゃるとおりです。タイではいま、就職先として、日系の製造業の人気が落ちているように感じていますが、信頼感と安定感で取引したい会社は多いはず。日本が持つ、新しい技術や革新的なソリューションをPRしていったほうがいい。IoTやデジタル化は、日本の製造業が人材を獲得する起爆剤になると思うんです。そのためには、まずは経営者が変わらないといけない。今日はその思いを新たにしました。ありがとうございました。
 

今回、川本氏がご紹介した、データを可視化、コミュニケーションの促進をサポートする、ソリューションとして、日立はLumada Manufacturing Insightsを提供しています。製造現場の可視化、カイゼン活動、生産性向上にご興味がある方は、詳細ページをご覧ください。
 

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