Vol.3

2019.01.31

現地で存在感ある会社へ。軸ブレのない経営で目指す現地化を果たす。

Exedy Friction Material Co., Ltd. 後藤 智詔 氏

[ この記事は、タイ語翻訳版英語翻訳版があります。 ]

マネジメントの現地化を果たすにはいったい何が必要なのだろう。自動車の駆動系部品メーカー、EXEDY Friction Materialの後藤智詔社長の答えは明快だ。「コミュニケーションこそが何よりも大切」と語る後藤氏は、かつてアマタシティ・チョンブリ工業団地の中でも最悪とされた同社を立て直し、タイ人従業員が自ら考え行動する企業体質へと導いた。後藤氏の話から現地化のエッセンスを学びたい。

従業員が誇りに思える会社を作ろう

EXEDYグループは、自動車用駆動系部品では世界トップクラスのシェアを誇る自動車部品メーカーだ。そのグループ会社でタイにあるEXEDY Friction Materialは、駆動系部品に使われる摩擦材を生産し、中でもマニュアルトランスミッション向けにおけるシェアは高く、世界で流通する日系自動車の約5割以上に同社の製品が使用されている。

タイに進出したのは1997年。2009年にはR&D機能をタイに移管。「安全・衛生・環境に優れるマネジメント会社」として、タイ労働省より連続して表彰を受け、またタイの大学と共同研究を行い、大学と連携して高度人材の育成にも取り組んでいる。もっともタイに根付いた日系企業の一つといっても過言ではないだろう。

だが、スタート時の状況はまったく違っていた。後藤氏は言う。

「作業環境も福利厚生もあらゆる面でアマタシティ・チョンブリ工業団地の中でも最悪と言われていました。過去には従業員による不正や横領、麻薬問題もあったし、事故も多く、人の出入りも激しかった。離職率は以前、10%にもおよんでいました」

しかし、いまのEXEDY Friction Materialには、3K(きつい・汚い・危険)の面影はまったくない。離職率は大幅に減った。生産ラインがストップする事態もまったく起きていない。

「世界中の車に部品を供給しているだけに生産停止は致命傷です。私はリスクには法律、人事、安全の3つがあると考えています。法律に抵触すれば生産停止を余儀なくされ、ストライキが起きれば停止してしまう。安全が確保されなければやはり生産に影響が出ますからね。特に安全の確保は大事です。タイは新しいモノをすぐに採り入れることは得意ですが、安全文化は浸透していない。技術革新は安全が確保されて初めて成立します。安全と技術革新は両輪なのです」

近隣の工場が労働争議で生産停止に追い込まれても、同社ではストライキはゼロ。生産活動が継続している。人材の定着率は高まり、安全性も大きく向上した。

なぜそれが可能だったのか。キーワードは「従業員が誇りを持って働ける会社にすること」だ。

タイ人と同じ目線でコミュニケーションする

従業員が誇りを持って働ける会社を実現するには3つの要素が必要だと後藤氏は強調する。

まず1つ目がコミュニケーションだ。

「何よりも最初にやるべきことはコミュニケーションを図ること。それには現地の人と同じ目線を持つことが必要です。日常的に工場やオフィスを歩き回っては従業員に声をかけ、日頃からコミュニケーションをとっておくことが重要ですね」

アプリを使って、無記名で社長に直接提案が届く仕組み「サジェスチョンボックス」もコミュニケーションを促進している。届いた提案については、すぐにマネージャーと共有し、改善に向けて対応。聞きっぱなしで終わらない仕組みが社員とマネジメント層との厚い信頼関係をもたらした。

ビジョンやミッション、安全に関するルールを常日頃から共有する機会を設けることも重要だ。

「どういう会社にしていきたいのかという私の思いが伝わるように懸命にコミュニケーションしています。伝わっているかどうかは従業員を見ていればわかりますね。従業員の3割に自分の思いが伝わったら、それで十分。3割が共感してくれたら会社は行きたい方向に進むことができますから。私は『軸ブレしない経営』を志していますが、そのベースを作るのは何よりもコミュニケーション。トップのマネジメントが従業員に意思や思いを伝えられなければ海外での事業はうまく回りません」

後藤氏は、行動を伴ったコミュニケーションも重視している。例えば、従業員がもし工場で事故に遭い、入院した場合には必ず見舞いに出向いている。

「こういう事態で会社のトップが何もしなかったら会社はそこで終わりです。生産がいま忙しいからといって見舞いにも行かないというのはありえません。安全が一番大事だと普段は言っているのに、万が一の事故でお見舞いに行かなければ安全が大切だと従業員に伝わらないからです」

葬式についても同様だ。たとえば場所がイサーンなど遠方であっても必ず足を運ぶ。

「私がどれだけ従業員の命を大切にしているかを行動で示すためです。出張中で葬儀に参列する機会を失してしまったというときには、100日後に行くとか、機会を見つけては訪ねるようにしています。そこでご両親やご家族とお話することが大切なんですよ」

従業員の体や命を気遣い、見舞いに行き、葬式に参列し、そこで会話をすることはコミュニケーションの一環。会社のビジョンやルールを徹底させるためには不可欠だ。

先の見えない研究開発。新しいものを生むために徹底したコミュニケーションの仕組み化

EXEDY Friction Materialは2009年からタイにR&Dの拠点を移した。日本の本社からは「サポートは一切しない」と明言。日本からのはしごをあえてはずしたのは、自立を働きかけるのが目的だ。

これからはすべて自分たちでやらなければならない。後藤氏はそう覚悟したものの、最初の2年のアウトプットはゼロだったという。なぜ何も生み出されないのか。問題を探ろうと後藤氏はある行動に出た。

いま何が起きているのか、課題は何か。タイ人従業員を集め、それを絵に描いて表してほしいと指示したのだ。すると興味深い結果が得られた。一つの絵には、日本の駐在員が2人立ち、その間にいまにも爆発しそうな爆弾を持つタイ人が描かれていた。

もう一つの絵は、日本人が車を運転し、研究開発に携わるタイ人はどこに連れていかれるのかわからないという状況を表していた。2つの絵から、日本人とタイ人との間でコミュニケーションが取れていないことは明らかだった。

「一般的なフローの仕事であれば、ただ『これをやって』と指示すれば簡単ですが、研究開発はそうはいかない。次にやることを見せないといけません。指示だけでは、研究開発が進むはずはないし、ましてやイノベーションができるわけがない。そこから改善を繰り返しました」

まず、後藤氏はタイ人と日本人が見るモノを一つに統一。メールや文書だけでは伝わりにくいので会議の場を設け、そこに計画表を置いてポストイットで貼っていく仕組みを採用した。やったこと、次にやることをポストイットで貼り、それをもとに会話を重ね、仕事を進めていく。1枚の紙を共有しながらコミュニケーションを図るシステムだ。

専門技術に関するコミュニケーションの場では、後藤氏は専門の大学教授を招いて、理解の統一を図った。

「難しい専門用語の場合、中途半端な英語や通訳では本当の意味や意図は伝わらない。日本人とタイ人とで理解が異なってしまいます。そこで私は、タイの大学を技術プレゼンをして周りながら、会社の固有技術に関わる専門の先生を探して産学官で共同研究することで、お互いが理解できる体制を整えました」

一般的な業務フローと専門技術に関する仕事とでは求められるコミュニケーションが異なる。どちらもスムーズに運ぶような仕組みの整備がコミュニケーションを充実させ、現地化の基盤を作り上げたのである。

会社のカルチャーに合った人材を増やすコンピンタンス評価

従業員が誇りを持って働ける会社を実現するための2つ目の要素が、情報をとことんオープンにし、ビジョン・ミッションをいっしょに描くことだ。

後藤氏は、ステップアップ制度をすべてオープンにし、働きやすい環境、働きたくなる環境を追求した。人事評価システムは日本と欧米の中間を目指し、タイの大学から教授を招いて手直しを続けている。

「タイ人はジョブホップするので、日本の人事評価システムそのままでは対応が難しい。キャリアパス制度を日本式よりも明確にしています。重視しているのは、コアコンピタンスですね。弊社の社員として持っていなければならないコンピタンスを評価制度の中に入れ、会社のカルチャーにあった人材を上げていく形にしました。私たちはタイの会社として、ここで研究開発をしていますが、我々の文化にあった人でないと続かないんですね。文化がない会社は50年、100年先の未来がない。コンピタンス評価にウエイトを置いているのはそのためです」

自分の目標は早く経営を現地に任せること。後藤氏が掲げる目標を実現するためにも、企業カルチャーを重視し、理解し、身につけた人材の育成は必須である。

地道なCSR活動がもたらす社員の誇りと会社への帰属意識

EXEDY Friction Materialを従業員がみな誇りを持って働ける会社にしたい。そのための3つ目の要素が、コーポレートブランディングだ。

同社が作っている部品はシェアだけで見れば世界で大きなシェアを占めているが、摩擦材としては組み付け部品であり、OEM製品であるだけに一般的な知名度は乏しい。トヨタや日産のように製品名でのブランディングは不可能だ。

そこで後藤氏はCSR活動に力を入れている。

「タイの小学校から大学まで848校が弊社の推進してきた労働省の安全な学校つくりのプロジェクトに参加しています。タイは交通事故も非常に多く、世界ワースト2位(10万人当たりの交通事故死亡者数)。学校では避難訓練もないし、安全に関する教育は皆無に等しかったので、安全を根付かせる教育を始めました。これからタイが高度技術と安全の両輪で、世界の企業とグローバル競争をしていくためにも、小さい頃から安全への意識を植え付けることが欠かせないのです」

このほかにも同社は現地大学とともにEVのプロジェクトを進め、コンケーンでは路面電車を走らせる計画を推進している。

「すべては、タイの中で良き企業市民として、タイ国にとって存在意義がある会社に成長させていくためです。弊社の場合、作業環境は決して良いとは言えません。昔は、製品の性質上、現場は暑くニオイも出る。粉塵も多く、給料が安い上に、汚い製品を作るので健康にも悪いと言われ、離職率が高かったものですが、いまではアマタシティ・チョンブリ工業団地の中では従業員の意見を聞きカイゼンを続けた結果、もっとも離職率が低くなりました。労使問題は起きず、労働省からも労使関係・安全衛生環境に優れる会社として多くの表彰してもらっている。それは、会社としてのブランドイメージを上げることに注力したからだと考えています」

ブランドイメージが良い会社であれば、働く人は自らの立場や環境を誇りに思う。プライドは勤労意欲や向上心に結びつく。地道なCSR活動のたまものだ。

駐在前に抑えるべき文化や宗教への理解

最後に、日本企業に対して望むこととして後藤氏は次の点を挙げた。

「駐在員に最低限必要なのはタイの習慣、文化や宗教を理解すること。また、駐在員の役割は何かを明確にすることも欠かせません。そのためには本社が駐在員を送り出すときにしっかりとミッションを明確にしてほしいですね。私はタイで日系の会社が人事問題でうまくいかない場合、日本人に課題がある場合が多いと考えています。駐在員は任期中、自分がタイで何を残せるのかを考えて仕事をしてほしいです。目指すべきは、決められた駐在期間中に従業員に対して何を成し遂げるべきか、成し遂げたのかがはっきりと答えられる駐在員です」

自分たちとは異なる文化や宗教観、価値観に敬意を払い、理解につとめる。その上で双方のコミュニケーションを図っていく。それが本当の意味での現地化へのスタートである。そして、ビジョン・ミッションを共有し、将来の姿を一緒に描く、すなわち自らの頭で考え判断できる人材を育成することが、最終的なゴールであるマネジメントの現地化を実現する、と後藤氏は語った。

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