2021.01.18

【セミナー開催レポート】2020年11月30日開催、『モノが売れない』時代にこそ見直したい、駐在員の役割

Meeit.bizが送る日本人向けセミナー。今回のテーマは「『モノが売れない』時代にこそ見直したい、駐在員の役割」です。コロナ禍でビジネスは大きなダメージを受けています。危機的な事態に直面しているいまこそ、駐在員の役割を見直すべきステージです。これから駐在員の役割はいかにあるべきなのか。日本企業の新興市場におけるマーケティング戦略やマーケティングのノウハウの移転、現地法人のマネジメントに関する企業調査を手掛けている一橋大学大学院 経営管理研究科の上原 渉准教授が解説します。
 

|マーケティング部はマーケティングをしていない!?


タイはいま日本企業の生産拠点から販売拠点へとシフトしつつあります。これまで日本の企業は、生産管理や工場のマネジメント、現地技術者の育成については十分に取り組んできましたが、販売組織作りや現地取引先の開拓、ブランド作り、マネジメント層の育成に関してはまだ発展途上。今後、現地法人は販売機能をどのように管理していくべきなのでしょう。まず、上原先生は次の問題点を挙げます。

「マーケティングはいま新技術や手法が目白押しですが、そうした技術の導入以前に、マーケティングの思考やプロセスが社内に正しく埋め込まれていません。まず、営業とマーケティングの区別がついていない。新製品開発や価格設定、広告メッセージ、流通経路の決定をどの部署が意思決定しているのかを調査したところ、広告のメッセージに関しては広告・マーケティングの部署が60%に近い影響力を持っていることがわかりましたが、それ以外では営業部門が強い。特に、流通関係に関しては営業の力が圧倒的でした」

教科書的にはマーケティング部がすべてを管理しているはず。しかし現実は違いました。製造部門や研究開発の意見が強いのです。では、マーケティングの部署はどのような業務を担当しているのでしょうか。

「マーケティング活動というより、関係部署と調整業務に追われている。つまり、顧客や競合の情報がマーケティング活動に反映されにくいということ。他部署からの『これを売りたい、売ってきてくれ』という社内事情が強く働いています」
 

|マーケティング主導の販売組織作りが急務

それでも日本国内でビジネスが回るのは、日本製を好む国民性が強く、定着したブランドイメージを好み、閉鎖的な商慣習によって市場が閉ざされているからです。しかし、一歩海外に出ればその手法は通用しません。

「日本企業には成長市場での経験が不足しています。また、日本の広告業には1業種1社という制約がないこともあり、日本企業は広告会社にマーケティングノウハウを依存しています。マーケティングのノウハウが外部の広告会社の中に蓄積されている状況です」

これでは、海外に進出してもうまくいくはずがありません。実際、タイも含め、東南アジアでは韓国、中国の企業に断然、勢いがあります。顧客情報が社内に還流していない日本の企業が対応に遅れてしまうのは当然といえば当然でしょう。

ここで上原先生はマーケティングと営業との因果関係を次のように解き明かします。

「営業で取引先を開拓してから徐々に事業を拡大する。それからマーケティング予算がついてTV広告もする。これが一般的な日本企業のモードです。一方、外資系企業はまずマーケティングの機能を備え、マーケティングからスタートします。そして、徐々に営業力をつけていく。マーケティングのサポートにより、その会社や製品の名前を聞いたことがある顧客が増え、その結果、営業が進めやすくなるんです。事実、マーケティングの計画がしっかりしていると、営業活動を進めやすくなり事業成果につながることが明らかになっています」

望ましいのは、マーケティング部署が市場情報に基づいて計画・戦略を策定し、その上で営業が活動するというプロセス。日本企業も、海外市場ではマーケティング主導の販売組織作りを進めていかなければなりません。
 

|長期的な視点でブランドを育てていく

次いで、上原先生はタイにおける日本企業のポジショニングを次のように語ります。

「車とバイクに関しては日本企業のブランド浸透度は非常に高いですが、それ以外は思いの外、評価されていません。日本企業は韓国や中国の企業よりも早くタイの市場に進出し、品質の高さにも定評がある。親日的なタイ人も多いです。本来なら有利な条件が多いのに、現実はそうなっていない。これは広告や口コミによる『憧れ』の作り方に課題があるからです」

「憧れ」の要素が薄いため、名前は知られているのに選ばれていない。この原因として上原先生が挙げるのが、長期視点の欠如です。

「タイの市場に根を張って売っていくのであれば目先の売上だけではなく、どうやってブランドを育てていくのかという視点が必要です。しかし、日本企業の駐在員の任期は3年〜5年。これでタイの人と腹を割って話す関係になるのは難しい。顧客ニーズの把握を起点として価格以外の訴求点を作り、取引先を選んで関係構築・強化・維持に関して戦略的な視点を持つこと、そして、 本社・他部署と密接に連絡を取り合り長期的な利益の最大化を目指すことが必要です」

「頻繁な駐在員の交代によるマーケティングの断絶」を克服するためには、長いスパンで戦略を掲げ、ブランドの一貫性を担う現地マーケティング担当者を育成し、信頼できるパートナーとして広告会社と取引をすることが必要なのです。
 

|本社からの信頼が高まれば売上が拡大する

現地法人は本社との関係性にメスを入れる必要もありそうです。

「日本の会社に協力してもらい、製品に関する7つの意思決定について合計で100%になるように『本社の影響力』と『現地法人の影響力』の2つを配分してもらいました。すると、『製品開発』や『生産』機能は本社主導ですが、販売機能に関しては現地法人に委ねられている傾向が浮かび上がりました。さらにマーケティングのノウハウを本社から得ている本社主導型と現法間でやりとりをしている権限移譲型に分け、現地法人のパフォーマンスとの関係を見ていくと、本社主導型ではノウハウを外から取り込むことで様々な業績を高めています。特に、現地法人から本社に市場の情報をあげ、その情報に基づいて本社がマーケティングのやり方を決めていると好ましい結果につながっています」

一方、権限移譲型では、ノウハウのやりとりをしてもあまり成果につながっていません。権限委譲型はどこかを参考にするのではなく、自分の市場に向き合い、ノウハウを内製する必要があるのです。

興味深いのは、本社との信頼関係と業績との相乗効果でしょう。権限移譲型では本社の信頼が高まるほど売上が拡大する傾向にあります。

「信頼が高まれば売上もプレゼンスも高まる相関関係が確認できました。一方、本社主導型では信頼しているからといって現地のパフォーマンスが高まるわけではありません」

販売機能は現地法人に委ねられていることが多く、権限委譲型の現地法人は本社と信頼関係を築いて自分たちの市場に向き合い、市場を理解し、ノウハウを自ら獲得する必要があるのです。
 

|市場を深く理解する有力なパートナーを獲得すべき

最後に、販売拠点での組織のあり方やマーケティング活動の進め方について、上原先生が課題と対策を紹介します。

「現地法人を販売拠点として確立していくのであれば、本社のノウハウが役に立たないことを前提に、自分たちで目の前の市場の情報を把握することが重要です。長いスパンでタイの市場で売れるための仕組みや利益が出る仕組みが必要ですね」

とはいえ、市場や顧客の情報を正しく伝えるタイ人スタッフを育成することは容易ではありません。タイ人にとって駐在員は「いずれいなくなる人」。会社に強いコミットメントを持って働く人材を探し、強い信頼関係を築くことはハードルが高い作業です。

ではどうするか。上原先生が挙げるのは、有力なパートナー企業の存在です。

「生産機能だけであれば独資は魅力的ですが、販売機能を重視するときには、本当に自分たちだけでできるのかと考えたほうがいい。必要なのは、現地の市場情報を詳細にやりとりできるパートナー。タイ市場をよく知り、欧米で教育を受けたエリート層です。社員にすることは難しくても、パートナーにはなってくれるはず。市場を深く理解し、パートナー企業との信頼関係を構築・維持するためには、例えば10年以上赴任する駐在員を置くなどして制度の複線化を図り、自律的なマーケティング部門の構築を図ることです」

それぞれの市場には固有の商習慣や力関係があります。海外で日本企業が自分たちだけで何かを成し遂げることは茨の道。駐在員制度の見直しも行いつつ、現地ではどんな企業と組むべきなのかという視点が不可欠なのです。
 

|外の情報を積極的に取りにいく人材を確保したい

上原先生のお話の後、たくさんの質問が寄せられました。その中から、BtoBの企業はマーケティングをどう展開すべきかという質問への回答をご紹介しましょう。

「BtoBは製品勝負だからマーケティングはいらないという考え方がありますが、シビアに品質や性能だけで取引が決まるなら、日本企業はもっと成功しているはず(笑)。どうやったら客が作れるかを考える機能が大事です。現地のパートナーの会社と、お互いに利益が出る高度なコミットメントの関係が作れると現地市場に関する知識不足を補えるでしょう。例えば、日本の企業の駐在員はよくゴルフをやっていますが、タイ人経営者もゴルフ好きですから、そこに入るというのも一つ(笑)。パートナー経由で自分のお客さんがどこにいるのかを探ってみてください」

パートナー企業との関係に関して具体的な成功事例を尋ねる声もあがりました。上原先生が取り上げたのは、ある乳業メーカーの例です。

「主力製品がプレーンヨーグルトなので、タイでもプレーンヨーグルトを売りたいと考えていましたが、タイのパートナー企業からそれは売れないと言われました。味覚も食べる目的も糖分に対する感覚も違うからです。パートナー企業側は、プレーンも売るけれど、ザクロ味やはちみつ味を出させてほしいと要望し、韓流タレントを広告キャラクターを起用し、成功しました。タイでは韓国のコンテンツの方が人気ですからね。これは日本側だけでは出ないアイデアでしょう。パートナー企業はタイ市場に合った選択をしたのです。日本の会社は運命共同体である現地のパートナーの提案を認め、市場を獲得していくのがいい。これはBtoBでも同様です」

最後にこんな質問が寄せられました。マーケティングの専門家や経験のある人材をタイの駐在員として赴任させるのは中小企業にとっては難しい。現地でマーケティングに長けた人材をどう育成すればいいのかという質問です。

「マーケティング専門の人を置く必要はないですよ。大事なのは、マーケティングの考え方を持っている人であること。外の情報を積極的に取るという発想と行動力のある人が望ましい。タイ人なら、自分の社会階層に閉じこもってしまう人ではなく、違う社会階層に飛び込んでいけるメンタリティがある人ですね。駐在員もそうです。殻を破ってタイ人経営者が集まっている中に身を置くことに抵抗がない人。そうした人材に着目してください」

マーケティングの思考を備え、コンフォートゾーンを自ら破り、外との接点を作る。そうした人材こそが販売拠点としての現地法人を支え、成功に導く要素であることを強調して、セミナーは終わりました。参加いただいた在タイの企業のみなさんは上原先生のお話からたくさんのヒントを受け取っていただいたようです。これからも、皆さまのご意見やご希望を踏まえて、さらに充実した内容のウェビナーを企画していきます。今後のMeeit.bizの取り組みにぜひご期待ください。

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