2020.06.08

【セミナー開催レポート】2020年5月7日開催、 日本人駐在員向けオンラインセミナー開催

Meetit.bizが送る日本人向けセミナー。今回は5月7日に開催された「決算適正化による利益捻出法 / COVID-19環境下での資産・利益管理の留意点」です。コロナ禍の中で企業はどのように資産利益管理に取り組めばいいのでしょうか。効果的な方法や留意点について公認会計士の西川和輝氏が解説します。

|耐用年数を変更する方法

2020年はCOVID-19の影響で多くの企業が減益に陥ることが予想されます。しかし、この状況下であっても、決算処理の適正化により利益を捻出することは不可能ではありません。大きな利益改善が見込まれるその方法とはどのようなものなか。西川氏は言います。

「機械や装置などの耐用年数を変更する方法です。この方法が適用できるのは、機械装置など大型の固定資産を保有し、かつ、税法上の耐用年数をそのまま利用している会社です。耐用年数は法律で決められていて、タイでは建物は20年以上、機械は5年以上、ソフトウエアやIT機器は3年以上となっていますが、この『以上』というのがポイント。本当は15年使えるのに5年で償却していたり、10年で償却していたとすれば、本来よりも早いペースで償却していることになるので、利益を出せる可能性があります。本来の耐用年数に変更することで、1年間の償却費負担が減るわけです」

例を挙げてみましょう。1500万バーツの機械を5年で償却すると年間300万バーツ。しかし、15年で償却すれば年間100万バーツです。つまり、15年で償却すると、年間200万バーツ分償却費が減り、負担が3分の1になるのです。

「加えて、償却を途中変更するとより大きな利益が生まれます。過去の償却負担は変えずに、将来の償却計算のみを変更するので、変更後の利益が大きく増えるんですね。3年前に1500万バーツで購入した固定資産を900万バーツ(300万☓3年)償却していたら、残りの簿価は600万バーツ。ここで4年目に耐用年数を15年に変更すると、残りの600万バーツを12年かけてゆっくり償却することになるので単年度費用は50万となり、負担が250万減ります。言い換えれば、利益が250万バーツ増え、負担が83%減少するということです」

ただし、この方法には留意点があります。

「監査法人との合意が必要です。変更の目的は、より実態に近い耐用年数へ変更し、決算を適正化するためと説明すること。また、過去の償却計算が間違っていたわけではないと主張することが大切です。この方法はともすれば利益操作と見られてしまうので、耐用年数の変更の根拠をしっかりと説明してください」

もう一つの留意点がシステムへの影響です。

「一部の会計システムやERPなどで償却を自動計算している場合、途中での耐用年数の変更がサポートされていないシステムもなくはない。このケースでは、自動償却は継続の上、耐用年数変更による償却減少額を手で計算し、会計で計上する必要があります」

|繰延税金資産を計上する

次に西川氏が紹介するのは、繰延税金資産を計上する方法です。繰延税金資産とは、先に支払ったと考えられる税金を税金の前払い(資産)としてとらえ、資産として計上したものを指します。

「会計上、将来税金を減らす権利を持っている場合には、その分を資産計上していいですよということです。引当金全般がそうですね。例えば、退職給付引当金は計上時は否認されますが、将来お金を払ったときに税金計算上の費用として認められ税金が減るので、資産計上できるというルールがあります。ただし、タイでは繰延税金資産を計上していないケースが非常に多いので、過去からの累積額を今期に計上すると大幅に利益を捻出できる可能性が高いのです。監査法人が過去の分の金額影響が大きすぎないと認めることが前提ですが、過去の分も含めて丸々全額当期に計上することで大きな利益が捻出できます」

従業員数100名で平均給与3万バーツの会社を例に挙げましょう。定年時に支払う解雇補償金の平均が6ヶ月、定年まで勤務する確立が20%だとすれば、退職給付引当金は360万バーツ。法人税率は20%なので、70万バーツを資産計上できる計算です。

「さらに金額が大きくなる可能性があるのが繰越欠損金です。タイでは損失は5年間の繰越が認められています。当期の赤字が500万バーツだとすれば、法人税率20%として、100万バーツの資産が計上できる。これは実質、純損失が20%減るということ。もし一昨年も昨年も赤字だとすると、(監査法人が過去分が大きすぎないと認めた場合)すべて今期に計上できます」

もっとも、この方法にも留意点があります。一つには、利益が増えるのは営業利益ではなく、純利益であること。営業利益ベースで業績評価をしている会社には意味がない方法といえます。

もうひとつの留意点が、計上を認められないケースや過去の決算の修正を迫られるケースです。過去分の金額が大きい場合には過去の決算の修正の扱いとなります。また、昨年から状況変化が無い中で計上したいと言うと、利益操作と判断され計上すら認められない可能性もあります。監査法人へは、「引当金や欠損金の残高が大きくなってきたため、決算を適正化するために計上したい」といった説明が良いと思います。

「過去からの損失額をすべて今期に計上すると影響が大きすぎるため、決算としておかしいと指摘される可能性は否定できません。過去の決算の修正扱いにするように求めれることもあるのです。ただし、親会社が上場会社の場合、過去決算の修正はおおごとなので普通は行われません。その場合、タイ側で過去決算の修正の扱いをしても、親会社が最後に全額当期に計上したものとして修正がはいるケースがあることは知っておいてください」

|ビジネス継続・停止の判断には限界利益を用いよう

次に、ビジネス継続・停止の判断の指標として限界利益を用いる方法が紹介されました。

「製造業では利益構造が複雑なため、判断は容易ではありません。コストの中に固定費や変動費が混在しているからです。そこでお勧めしたいのが限界利益を活用する方法です。限界利益とは『売上ー(マイナス)変動費』。売上が増加することで増える利益を指します。この限界利益で固定費を回収できれば利益になります。限界利益による計算をするには、まず固定費の金額を把握しましょう。簡単な方法は勘定科目で分けること。販管費も分けて、固定費になっているところだけを集計します。ざっくりと把握してください」

ポイントは、限界利益を製品別に計算すること。どの製品がどれだけ固定費を回収しているのかを計算します。とはいえ、製造業で、ある製品を1個作るのに燃料費などの間接費を実際にどれだけ使ったかの計算は困難です。

「その場合には、標準原価を使用します。簡便なもので構いません。変動費を抜き出し、材料費やパッキング費、燃料費などを集計すると、1個の製品をつくるのに必要な標準変動費が算出できます。製品の平均売価から標準変動費を引くと標準限界利益がわかり、製品ごとの実績販売量とかけて算出した限界利益を積み上げていくと、各製品がどれだけ利益貢献しているかを見ることができます。これをもって、ビジネス継続・停止を判断しましょう。まずは製品単位の判断をすること。粗利が赤字でも限界利益が黒であれば基本的には続けるべきだと考えます」

固定費を削ることができる場合は別の判断が必要です。ある製品のビジネスをやめることで限界利益を失ったとしても、それ以上に固定費を削れる場合には、停止判断もあり得ます。これらの方法は、標準原価表を持っていると自社で計算できるとのこと。ぜひやってみてください。

|不況期に増加する横領や税務リスクへの対応策

景気停滞が進むと、2つのリスクが高まることが予想されます。それは、横領増加リスクと税収減少による徴税強化リスクです。

「まず横領についてお話しすると、アジア太平洋地域で横領被害にあった企業の割合は45%に及びます。明るみになっていないケースを含めるともっと高くなるでしょう。今年はさらに上がると思うので、大なり小なり起きているという前提での対策が必要です」

横領への対策を立てる上で必要なのは、不正のトライアングルを知ることです。不正は、動機、機会、正当化の3つが揃うと実行されやすくなりますが、このうち、唯一会社側でコントロールできるのが機会です。

「機会をなくすには、不正のできない仕組みが必要です。在庫資産関係では、在庫移動プロセスに横領リスクがあるので、入出庫管理を強化します。タイでは在庫横領分については売れたものとして課税されてしまうので、企業にとっては二重の意味で痛手です。対策は不可欠ですね。棚卸しは2名以上で行いましょう。オイル、金属線、スクラップ、梱包材など、費用計上された在庫や副資材、消耗品などは、在庫管理対象ではないので、横領対象となりやすい。重要なものには何らかの入出庫管理を導入することも一案です。購買関係で起きやすい不正はキックバックです。これは見つけるのが難しいため、対策としては内部通報制度を設けること。これによって発覚するケースが多いのです。購買担当者のローテーションほか、一般資材購買先の定期的な変更なども有効です」

人事関連の不正としては、架空従業員のケースが考えられます。HRマネージャーが退職した従業員の台帳を残し、給与振込口座に自身の口座を指定するといった方法です。防止策としては従業員台帳を2名で更新するほか、従業員台帳と実際の従業員の突き合わせを実施します。

「監査法人との共謀もありえます。タイではローカルの監査法人と経理がグルになって横領するケースが少なくないので、信頼できる監査法人を使ってください。また、線引でない小切手にサインさせ、現金を引き出す不正も見受けられます。対策としては、線引ではない小切手にはサインしないことと、2名以上で仕訳を計上することです。消えるボールペンで小切手の書き換えをする不正もあります。対策は、小切手を手書きさせないことに尽きますね。立替経費関連では私用の領収書を提出したり、領収書を偽造する不正もありますが、すべての発見は難しいと言わざるを得ません。小口現金の使用額を減らすことで対応してください」

|不況期に増加する税務リスク

今後は、徴税が強化されるリスクや還付金が遅れたり還付されないリスクが高まることも想定されます。これについては、法人税、VAT、源泉税などの課税強化など、一つひとつリスクをつぶしていくしかありません。

関税の課税強化については、西川氏は有効な方法を提案します。

「今後は関税局の税務調査が厳しくなる可能性があります。おそらく、HSコードの恣意的適用で追徴されるケースが多くなるでしょう。高いHSコードを持ち出して、追徴しますよというパターンです。明確な対応策となるのが事前教示制度。関税局に対し、この物品はこのHSコードで間違いないのかと確認する制度です。2年の法的拘束力があり、費用は1品目1000バーツ程度。100品目あれば10万バーツの費用がかかりますが、2年有効なので年間の費用は5万バーツです。今年からは絶対にやったほうがいい。上位30%の取引量の多い品目だけでも良いと思います。還付の遅れについては正攻法での対応は難しいです。歳入局のOBを抱えたコンサル会社に依頼するのも一つの選択肢かもしれません」

赤字の場合に税務調査を受け、多額の追徴課税を受けてしまったー。そんな赤字企業の課税リスクについてはどのように考えればいいのでしょう。西川氏はこう指摘します。

「目をつけられると払わざるを得ません。何百万バーツ単位で追徴され、しかも反論が難しいのです。交渉して、言われた金額の半分ぐらい払うのが落とし所と言われています。赤字を続けると追徴課税のリスクがあることを踏まえて、事業の継続や停止を判断した方がいいでしょう」

|減価償却年数を伸ばしたら先送りになる?

西川氏のお話が終わったところで、参加者からはたくさんの質問が寄せられました。その中からいくつかをピックアップしましょう。まず最初に挙がったのは、大型の固定資産の耐用年数の変更は難しくないかという質問です。

「耐用年数の変更は骨が折れる作業です。骨折り損を避けるためには、手間をかけても利益がどれぐらい減るのかを計算すること。償却期間を伸ばすと償却費負担がいくら減るのかを具体的に計算してほしいですね。監査法人にもよりますが、通常は年度で区切るのが一般的です。ただ、親会社が上場会社の場合、四半期決算をしているので、監査法人との相談は必須でしょう。ちなみに、耐用年数の変更については税務署から指摘が入ることはまずありません。伸ばすと利益が増え、税金が増えるからです」

実際に減価償却年数を伸ばしたことがあるが、先送りだと言われてしまったーという経験談も参加者から寄せられました。これについて西川氏は、原価の先送りかどうかは、伸ばした耐用年数が正しい年数かどうかによると言います。

「本来15年使えるものを20年に伸ばすとすれば、これは原価の先送り。本来15年持つものを5年にしていたので、15年に正しく伸ばす場合は先送りではありません」

賞与引当金を減らしたいが、月単位で替えても問題はないかという質問も飛び込みました。

「これは、月単位の損益を誰が見ているという話です。税務署は月単位の損益は見ていません。課税は年単位で行います。タイのローカル監査も同じですね。親会社がOKなら問題ないでしょう。上場会社の場合、四半期決算をやっているので、四半期をまたいで利益がおかしくなると、合っていないということになりうるので金額次第ですね。小さい金額なら目くじら立てられることはないでしょう」

|93%が「よかった」と評価

2時間近くに及んだ西川氏によるウェビナーは、参加者から大好評を博しました。アンケートにご回答いただいた61人中、93%の方から「良かった」という評価をいただいたのです。話がわかりやすく、豊富で具体的な資料も有意義だったと好評でした。今回、西川氏が語った各トピックをぜひ今後の資産利益管理にご活用ください。

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